ファクタリングは、企業が保有する売掛金を売却して早期に資金を確保できる方法で、企業の資金調達手段のひとつとして広く知られています。
こうしたファクタリングを専門に取り扱う企業も増えていますが、中には悪質な業者も存在しており、利用者が思いがけずトラブルに巻き込まれるケースもあります。
もしも、悪徳ファクタリング業者を知らずに利用してしまった場合、どのようなトラブルが発生する可能性があるのでしょうか。また、そのような状況に直面した際に、弁護士に相談することが有効かどうかも気になるところです。
今回は、ファクタリングの基本的な仕組みや利点・リスクを整理し、ファクタリングを利用する際に起こり得るトラブルのケースと、弁護士に相談すべき状況、相談時の注意点について詳しくご紹介します。
ぜひ本記事を参考にして、トラブルを未然に防ぐための知識を得てください。
ファクタリングとは?
まずは、ファクタリングの基本的な取引について整理してみましょう。
資金調達としてのファクタリング
ファクタリングは、企業が保有する売掛金をファクタリング業者に売却することで、売掛金の支払日より前に資金を得ることができるサービスです。
通常、売掛金の入金までには30~60日程度かかることが多く、売上があるにもかかわらず資金繰りに困る企業も少なくありません。
このような状況下でファクタリングを利用すれば、売掛金を迅速に現金化し、安定した資金繰りを実現することで経営の健全化を図ることができます。
ファクタリングの利点
ファクタリングの大きな利点として「信用情報に影響を及ぼさない」という点が挙げられます。
ファクタリングは借り入れとは異なり、売掛金の売却という形で資金を得るため、信用情報に記録されません。このため、今後の事業拡大や追加の資金調達を予定している企業でも、安心して利用できるでしょう。
さらに、赤字決算や税金・社会保険料の滞納があっても利用可能な場合が多いことも、ファクタリングの利点のひとつです。ファクタリングの審査では、利用者自身ではなく売掛先の信用力が重視されるため、利用者の財務状況に不利な点があっても利用できる可能性があります。
ファクタリングのリスク
一方で、ファクタリングには「手数料が発生する」というデメリットもあります。
手数料は業者によって異なりますが、売掛先の信用力や売掛金の支払期限、売掛金の額面に応じて変動し、融資と比べてコストが高くなる可能性もあります。資金調達が迅速に行える反面、手数料の高さを考慮して利用の可否を検討する必要があります。
さらに「債権譲渡登記が必要になるケース」もリスクのひとつです。債権譲渡登記にかかる費用や、売掛先がファクタリングの事実を知ることになる点を留意しなければなりません。
ファクタリングの仕組み
ファクタリングには、2者間ファクタリングと3者間ファクタリングの2つの方法があります。
2者間ファクタリング
2者間ファクタリングは、利用者とファクタリング会社の間で契約が行われるシンプルな形態です。売掛先には関与させず、迅速に契約から資金化まで進めることができます。
ただし、ファクタリング会社が売掛先に対して売掛金の存在確認ができないため、リスクを見越して手数料が高くなる傾向があります。
3者間ファクタリング
3者間ファクタリングは、利用者とファクタリング会社に加えて売掛先も契約に関与するため、取引の安全性が高まる反面、手続きに時間がかかる場合があります。
売掛先の承諾を得たうえで進めるため、架空債権や二重譲渡のリスクを軽減でき、手数料も低くなることが多いです。売掛先の財務状況が良好であれば、審査が通りやすくなる場合もあります。
ファクタリングと法的根拠
ファクタリングは「売掛金の譲渡」による資金化であり、法的には「債権譲渡契約」に該当します。
民法第466条で認められているため、合法的な取引として成立します。また、売掛金を売却する行為に対しては民法第555条も適用されるため、ファクタリング自体には法的な問題はありません。
悪質業者が存在する理由
合法的な取引であるファクタリングですが、悪質な業者の存在がトラブルを引き起こす要因となっています。
ファクタリングを行うために特別な資格や許可は不要で、誰でもビジネスとして参入できるため、不正行為を行う業者も少なからず存在します。手数料や買取金額の自由度が高いことも、悪質業者が暗躍する一因です。
金融庁もファクタリング業者に対する注意喚起を行っており、悪徳業者には特に注意が必要です。
悪質なファクタリング会社とのトラブルの事例
悪質なファクタリング会社を利用してしまった場合、どのようなトラブルが想定されるのでしょうか。
法外な手数料の請求
悪質業者は、通常のファクタリング手数料の範囲を大きく超える額を請求してきます。一般的には、2者間ファクタリングで8~18%、3者間で2~9%程度が相場とされていますが、悪質業者は30%以上の高額手数料を設定してくる場合もあります。
契約当初は低い手数料を提示し、後から法外な手数料を請求する手口が一般的です。
契約書の不交付
悪質なファクタリング会社では、「契約書を渡さない」といったトラブルも発生します。
本来、契約書は双方の間で保管されるべきものですが、悪徳業者は契約書を利用者に渡さず、トラブル時に不利な状況に陥れることがあります。
不正な償還請求権の設定
償還請求権とは、売掛先が支払えなかった際に、ファクタリング会社が利用者に費用の返還を求める権利です。通常、ファクタリングは「ノンリコース契約」として償還請求権がない取引が一般的ですが、悪質業者はリコース契約を強制し、返済を求めてくるケースもあります。
債権譲渡通知の悪用
債権譲渡通知とは、売掛金が利用者からファクタリング会社に移転されたことを売掛先に知らせるものです。
通常、2者間ファクタリングでは売掛先に通知しないケースが多いですが、悪質業者は契約に反して売掛先へ通知を行うことでプレッシャーをかけ、利用者から追加の支払いを引き出そうとすることがあります。
特に、売掛先との契約に譲渡禁止特約が含まれている場合、債権譲渡通知が行われると利用者の信用に傷がつき、契約解除や取引停止といった重大な問題を引き起こす可能性もあります。
違法な取り立てや脅迫行為
ファクタリング契約は貸金業法の適用外であるため、取り立てに関する規制も及びません。このため、悪徳業者の中には過剰な取り立てや脅迫行為を行う業者もいます。
具体的には、深夜や早朝の電話、しつこい訪問、利用者を心理的に追い詰める言動など、違法な取り立てや脅迫行為が問題となる場合があります。最悪の場合、暴力行為に発展するケースも報告されています。
保証や担保を求められるケース
ファクタリングは「売掛金の売却」であるため、原則として借入とは異なり、償還請求権や保証を必要としません。しかし、悪質なファクタリング会社は、売掛先が支払わない場合に備えて、利用者に担保や保証を要求することがあります。
この要求に応じると、後々トラブルに発展する恐れがありますので注意が必要です。特に、レンタルオフィスや携帯電話のみを連絡先としている業者には注意が必要で、所在地が不明確な悪徳業者である可能性があります。
契約内容を十分に説明しないケース
悪質なファクタリング会社は、「信用情報に影響がなく簡単に利用できる」といったメリットを強調し、具体的な契約内容やリスクについての説明を怠ることがあります。
このような場合、後から思わぬ請求やトラブルに巻き込まれる可能性があるため、事前にしっかりと契約内容を確認することが重要です。
弁護士にファクタリングのトラブルを相談すべきケース
悪徳ファクタリング会社を利用してしまうと、スムーズな資金調達どころか、資金繰りの悪化や事業への悪影響が生じる可能性があります。
このような事態を避けるために、以下のようなケースに遭遇した際は、早めに弁護士に相談することを検討しましょう。
違法な取り立てや脅迫を受けた場合
もし、悪質なファクタリング会社から「1日に何度も電話がかかってくる」「自宅やオフィスに押しかけられる」などの違法な取り立てや脅迫行為を受けた場合、すぐに弁護士に相談しましょう。
弁護士が介入することで、警察への通報を含め、早期に問題解決が図れる可能性があります。
貸金業と疑われる場合
見かけ上はファクタリングとして契約していても、実際には貸金業に該当するケースもあります。
たとえば、「償還請求権ありのリコース契約を強制される」「手数料を払えば支払期日を延ばせる」などの条件がある場合、貸金業に当たる可能性があります。貸金業には金融庁の登録が必要で、未登録での営業は違法行為に該当します。
弁護士に相談すれば、違法性の確認や対応についてアドバイスを受けることができます。
債権譲渡通知を盾にされた場合
悪質業者は、利用者の契約違反を理由に売掛先への債権譲渡通知を行うと脅してくる場合があります。
最初は債権譲渡通知を行わないと約束していても、後から利用者に不利な条件を強いるために脅迫に使われることがあります。
こうした場合も弁護士に相談することで、債権譲渡通知の差し止めや他の法的手段で対応できる場合があります。
手数料に関するトラブル
法外な手数料を請求された場合、弁護士に相談することで解決の道が見えるかもしれません。しかし、ファクタリングの手数料には上限規制がないため、双方の合意があれば高額な手数料も合法とされる可能性があります。
そのため、相談の際はリスクと効果を見極め、慎重に判断しましょう。
その他の悪質な行為に直面した場合
ファクタリング会社の行為が明らかに違法で、かつ売掛金の金額が大きい場合には、内容を問わず弁護士に相談するのが賢明です。
弁護士を通して交渉することで、悪徳業者が法的措置を恐れ、対応が軟化する場合もあります。少しでも悪質性が感じられたら、早めに弁護士のサポートを受けることが望ましいです。
利用者に過失があるケース
ファクタリングのトラブルが発生する原因は、ファクタリング会社側だけでなく利用者にもある場合があります。
たとえば、提出する書類に虚偽の情報が含まれていた場合、詐欺罪に該当する可能性があります。また、2者間ファクタリングで売掛金を回収した後、その資金を使い込んだ場合は横領罪となるリスクもあります。
そのため、過失があった場合も迅速に弁護士に相談し、示談や解決策を模索することが重要です。
弁護士にファクタリングトラブルを相談する際の注意点
ファクタリング利用時に生じたトラブルについて弁護士に相談する際には、以下の点に注意を払うことが重要です。
費用が明確でない場合がある
弁護士に依頼すると、当然のことながら弁護士費用が発生しますが、ファクタリングのトラブル解決に関しては費用の相場が明確ではないケースが多いです。
離婚や相続といった一般的な案件に比べ、ファクタリング関連の問題は専門性が高く、料金設定がはっきりしないこともあります。
複数の弁護士事務所に見積りを依頼し、比較検討することで、適正な費用感を把握してから依頼するのがおすすめです。
悪質な弁護士にも要注意
すべての弁護士が信頼できるわけではなく、残念ながら中には悪質な弁護士も存在します。
例えば、ファクタリングに関する案件を得意だと宣伝しながら実績がほとんどない弁護士や、「法律の整備が不十分だ」と言って解決を先延ばしにし、報酬を増額しようとする弁護士がいることも事実です。
こうした悪質な弁護士を避けるためには、過去の実績や対応の丁寧さをしっかりと確認することが必要です。
債権譲渡通知の可能性がある
ファクタリングのトラブルで弁護士に相談する場合、債権譲渡通知が行われる可能性についても留意する必要があります。
弁護士を通じて債権譲渡通知が発行されると、売掛先との信頼関係が損なわれる恐れがあるため、通知を防ぎたい場合は事前に弁護士に確認することが重要です。
まとめ
ファクタリングは、売掛金を早期に現金化して資金調達を図れる便利な手段です。
その仕組み自体には法的な問題はありませんが、悪質なファクタリング会社と契約すると、多くのトラブルに巻き込まれるリスクがあります。
法外な手数料の請求や、契約書を交付しない、償還請求権を含む契約を押しつけてくる業者などには注意が必要です。
もし悪質な業者とトラブルが発生した場合は、早めに弁護士に相談することで問題の早期解決が期待できるでしょう。
ファクタリング利用時には、悪質業者を見分けるための事前のリサーチが重要です。トラブルに巻き込まれないよう、注意を怠らないようにしましょう。