ディスカウントキャッシュフロー手法は、M&Aの際に企業の価値を評価するための一般的な手段です。
ただし、この手法の計算は複雑で、手間がかかるため、難易度が高いと感じている方もいるかもしれません。
今回は、このディスカウントキャッシュフロー手法の基本的な考え方から、具体的な計算手順までを丁寧に解説していきます。
M&Aを検討している事業主の方々にとって、ぜひ参考にしていただきたい内容です。
企業の価値を算定する「ディスカウントキャッシュフロー手法」とは?
まず初めに、ディスカウントキャッシュフロー手法とはどのようなものか、その活用メリットや注意点について説明します。
M&Aにおける主要な企業価値評価の手法
ディスカウントキャッシュフロー手法は、企業や事業の価値を評価するためのアプローチです。
この方法は、特にM&Aの場面で企業価値を計算する際に利用されています。
英語で「Discounted Cash Flow Method」と表記されるため、略称で「DCF法」と呼ばれることが多いです。
DCF法は将来のキャッシュフローを現在の価値に換算する手法
この手法では、企業が将来的に生み出すと予想されるキャッシュフローを計算し、その不確実性やリスクを考慮して現在の価値に換算します。
具体的には、事業計画書を基に将来のフリーキャッシュフロー(将来的な利益)を見積もり、それを割引率を使って現在の価値へと調整します。
詳細な計算方法については後ほど説明するので、引き続きお読みください。
「現在価値」とは?
ここまでに何度か「現在価値」という言葉が登場していますが、これは将来受け取る金額を今の価値に換算したものです。
例えば、今すぐに1,000万円を受け取るのと、10年後に同じ金額を受け取るのでは、どちらが得でしょうか?
多くの人が今すぐ受け取る方を選ぶでしょう。
その理由は、10年後に自分がその1,000万円を有効活用できる保証はないからです。
また、10年後に受け取る1,000万円の価値は、現時点での1,000万円よりも低くなる可能性があるためです。
このように、時間が経過すると金銭の価値が変動するという「貨幣の時間価値」の考え方があります。
この考え方に基づき、将来受け取る金額を現在の価値に変換する必要が生じるのです。
DCF法を使用するメリット
ディスカウントキャッシュフロー手法の利点は、企業の将来性を反映した評価ができる点です。
現時点で赤字を出している企業であっても、将来的に有望な事業に取り組んでいたり、現時点では設備投資が必要だとしても将来的には資金繰りが安定する見込みが立っていれば、将来のキャッシュフローは安定すると見なされます。
この手法では、こういった要素を考慮して企業の価値を測定することができ、M&Aにおいて具体的かつ現実的な金額を把握することが可能です。
DCF法のデメリット
一方で、ディスカウントキャッシュフロー手法には、正確な評価が難しいという欠点があります。
企業の事業計画書をもとに将来のフリーキャッシュフローを見積もりますが、計画書には経営者の楽観的な予測が含まれることが多く、不確実性が高いです。
そのため、計画通りに進まない場合、実際の企業価値とは異なる結果になることがあります。
ディスカウントキャッシュフロー手法の具体的な計算方法
ここでは、具体的な例を使ってディスカウントキャッシュフロー手法の計算手順を説明します。
まず求めるべき3つの項目
ディスカウントキャッシュフロー手法を用いる際には、まず「将来フリーキャッシュフロー」「割引率」「ターミナルバリュー」の3つの要素を計算する必要があります。
将来フリーキャッシュフロー
企業の事業計画書をもとに、予想損益計算書や予想貸借対照表を作成し、それを基にフリーキャッシュフロー(FCF)を以下の式で算出します。
営業利益 ×(1-税率)+ 減価償却費 ± 正味運転資本増加額 - 設備投資額
例として、将来5年間のフリーキャッシュフローを以下の通りに設定します。
1年目・・・100
2年目・・・70
3年目・・・130
4年目・・・90
5年目・・・150
割引率
割引率とは、将来のキャッシュフローを現在の価値に換算するための割合で、加重平均資本コスト(WACC)を使って算出するのが一般的です。
負債総額 ÷(負債総額+株式の時価総額)×(1-実効税率)× 負債コスト + 株式の時価総額 ÷(時価総額+有利子負債)× 株主資本コスト
この記事では割引率を0.1と仮定します。
ターミナルバリュー
ターミナルバリューは、将来フリーキャッシュフローの計算ができない期間以降の価値を指します。
5年以降の永続価値を見積もり、最終年度の将来フリーキャッシュフローを使って算出します。
最終年度の将来フリーキャッシュフロー ÷ 割引率
この記事では、最終年度のキャッシュフローを150として、「150 ÷ 0.1 = 1500」と仮定します。
DCF法の計算式
以上で求めた「将来フリーキャッシュフロー」「割引率」「ターミナルバリュー」を以下の計算式に当てはめます。
将来フリーキャッシュフロー ÷(1 + 割引率)^ 何年目か
※「^」は乗数を表します。
例として計算式に当てはめると以下のようになります。
1年目・・・100 ÷(1 + 0.1)^1 =90.9
2年目・・・70 ÷(1 + 0.1)^2 = 57.8
3年目・・・130 ÷(1 + 0.1)^3 = 97.6
4年目・・・90 ÷(1 + 0.1)^4 = 61.4
5年目・・・(150 + 1500) ÷(1 + 0.1)^5 = 1024.5
合計・・・90.9 + 57.8 + 97.6 + 61.4 + 1024.5 = 1332.2
これにより、A社の現在価値は「1332.2」となります。
年数が経つごとに割引率の影響が大きくなり、将来の不確実性が増していくことが確認できます。
まとめ
M&Aで企業を買収する際は、ディスカウントキャッシュフロー手法を使って売り手企業の価値を見積もることがよくあります。
この手法では、企業の将来性を考慮した評価が行われるため、目安として活用することが重要です。
買い手企業にとって、企業の将来の可能性を評価することは、買収を決定するうえで大切な指標となります。
ディスカウントキャッシュフロー手法の理解を深め、賢明な判断を行いましょう。